イタリア全土にみられるように、ヴェネツィアにも日本食のレストランが多くある。しかし、日本食には種々な種類の料理があるにもかかわらず、ほぼお寿司しかメニューにないということは事実だ。
しかし、オステリア・ジョルジョーネ・ダ・マサは、それとは少し違う和食レストランである。この店のシェフは岡山県出身、40歳の本間真弘さんである。彼は20年前に、和食とイタリア料理を勉強し始めた。そして、イタリア料理を興味深く思うようになり、友達の影響でイタリアに長期間、滞在することにした。始めの数か月はフィレンツェに行き、イタリア語の学校に通った。その後はミラノ、カターニアなど色々な都市を回り、最後にヴェネツィアにたどり着いたたということである。
「ここでたくさんのことを学んだのです。イタリア料理だけではなく、イタリア文化も。そして、たくさんの人と知り合ったから、まだここにいるんですね。でも、知らないことはまだたくさんありますよ!」と真弘さんは話している。
「正直にいうと、10年の間にわたって、ここから逃げた時もありますけど、結局毎回ここに戻りましたね。ヴェネツィアは本当に唯一無二の街ですから。
そして、なぜヴェネツィアが好きかというと、日本と同じく魚介類が豊富ですから。日本を思い出させるのですね。」
このレストランが開店したのは、一年前、新型コロナウイルスによるパンデミックの最中だった。
「最初はきつかったけれども、ロックダウンの時に自由な時間がたくさんあって、17年間、イタリア料理のリゾット、パスタ、ラビオリばかりを作っていたから、もう一度和食を最初から勉強しました。YouTubeの動画を観て、同じレシピを100回、110回と作り続けていました」と真弘さんは語る。
・和食ではなく、ヴェネツィア料理と和食のフュージョンのアイディアはどこから生まれたのですか。
「主な理由は、日本の材料をここで全て手に入れる事は難しいからです。そのため、ヴェネツィアの材料を使って、和食を作るということにしました。にんじん、玉ねぎといった基本的な食材でもイタリア産と日本産とはちがっていて、10年以上の経験から、最もよい使い方が分かるようになりました。魚も同じで、ヴェネツィアの魚介類は醬油やわさびと合わないと思います。ですから、別の調理法を探すことにしました。例えば、ヴェネツィアの魚介類でちらしを作っています。また、ヴェネツィアのイワシで南蛮漬けを作ります。ヴェネツィアには、イワシと玉ねぎを使ったサルデ・イン・サオールというものがあるので、このヴェネツィアの前菜を和風にして紹介しています」と真弘さんは説明する。
「でも、このような方法で、ヴェネツィア人が知らない日本のたくさんの料理を紹介しているんです。生漬け、なすの揚げだし、逆巻寿司、おでん、焼き鳥とか。でも、焼き鳥を作るために、パドヴァの鶏肉を使っています。ラーメンも同じことをしていて、岡山のラーメンのように、豚のだしではなく鶏だしを作っています」とのこと。
「ヴェネツィアにはお寿司以外の和食はほぼ知られていないので、最初は簡単で、伝統的な和食を紹介しようと思っています。年が経てば経つほど、更にフュージョンにするかもしれません」
・お客様の反応はどうですか。
「ヴェネツィア人のお客様の反応はとても良いと思います。日本人のお客様や和食をよく知っている人なら、やはり少し変で和食ではないと思うかもしれませんけど、大概のお客様の反応は良いと感じています」と真弘さんは答える。
・最後の質問ですが、イタリアまたはヴェネツィア料理の一番好きな一皿はなんですか。
「答えるのが難しいですね。でも、疲れた時にいつも簡単なパスタを作ります。ヴェネツィア料理なら、一番好きなのはリゾット・ディ・ゴ (*) かもしれません」
(*) 翻訳者注:リゾット・ディ・ゴはハゼと似いている魚で作られたリゾット。この魚はヴェネツィア方言で「ゴ」と呼ばれているが、イタリア語でギョッゾと言う。
ヴェネツィアの食材から、どのように日本料理が生み出されるのか興味がある方、そして寿司以外の日本料理を試したことがない方に、オステリア・ジョルジョーネ・ダ・マサはおすすめの場所である。真弘さんの熟練した手で作られる料理を通して、日本の伝統料理を味わえ、日本にいるように感じることができる。